風に溶けて消える

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【読んだ】アート小説『たゆたえども沈まず』原田マハ

フィンセント・ファン・ゴッホ。彼の絵がとても好きだ。

たまに美術展に行くくらいで、アートには詳しくないのだけれど、ゴッホの絵は特別好きなものがある。『ローヌ川の星月夜』と、『夜のカフェテラス』。

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夜のカフェテラス』(1888)

ゴッホの絵はまだ本物を観たことがないから、とても観てみたい。そんな中見つけた、ゴッホの『星月夜』が表紙になっている、原田マハさんのアート小説『たゆたえども沈まず』。

 

アート小説ということで、普段読んでる小説と一味違った面白さがあったので少しレビューを。

 

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『星月夜』(1889)

アート小説とは

アート小説は、史実をもとにしたフィクションである。この、『たゆたえども沈まず』にも、事実と作り話が入り混じっている。

原田マハさんは、早稲田大学で美術史を専攻していたという来歴があり、本書以外にもアート小説を出している。

なんだフィクションか、と思って読んでみたけどこれがおもしろいおもしろい。

 

史実をもとにしているから、出来事として本当に起こったことがでてくるのと、実際に残した作品名がたくさん出てくるのとで、ノンフィクションを読んでいる気分になる。

 

絵は、題名だけじゃわからないから、画像検索をしながら読み進める。スマホに現れる絵にどこか親近感を覚えたのはきっと、物語が付随されているからだろう。ただシンプルに、絵を見るだけじゃ感じられない近さを感じた。

 

『たゆたえども沈まず』あらすじ

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舞台はフランス、パリ。この小説は、画家であるフィンセント・ファン・ゴッホと、その弟、画商であるテオドルス・ファン・ゴッホの物語である。

ゴッホといえば、死後に評価されるようになった画家だ。そんなゴッホの、生きている間を描いた物語。

 

そんなふたりの人生に影響を与えるようになるのが、パリで画商をしている日本人の林忠正と加納重吉だ。当時のパリでは、日本美術、浮世絵が大人気で、影響を受けた画家も大勢いた。フィンセント兄弟も同様だった。

衝動的で、不安定なゴッホを献身的に支えるテオドルスと、その二人を見守る忠正と重吉。

 

ゴッホが見た風景、描きたかったもの、遺したものとは。

 

感想

たくさんのゴッホ作品が出てくる

冒頭でも述べたが、ゴッホの作品が本書にはいろいろ出てくる。

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『ジャガイモを食べる人々』(1885)

この絵は、ゴッホの画家としてのキャリア初期の作品。色彩も雰囲気も暗く、決して幸せそうとは言えない描写に息が詰まりそうになる。だけれどこのなんとも言えない暗さ、とても好きだ。グッとくる。

 

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『ひまわり』(1888)

打って変わって、色彩の明るくなる『ひまわり』。この色彩の移り変わりについても、物語としてインプットした後に絵を見るから、ストーリーが繋がって楽しめる。

小説、物語を読んでいるのに、次はどの絵かな、と、絵を見るのを楽しむための小説になってしまった。それはそれで一興ですが。

 

フィンセント兄弟の危うさ

売れない画家だったゴッホは、弟からお金の援助をしてもらってひたすらに絵を描いていたが、精神的に不安定で、自傷行為をしたり自殺を図ろうとしたりする。

そのたび弟のテオドルスは、悩み、苦しみ、自分を責めた。兄が頑張っているのに、自分が幸せになっていいのだろうか、と。

 

本文には、テオドルスの友人になった重吉がテオドルスに向けた、こんなセリフがある。

 

君たち兄弟に共通しているのは、よくも悪くも物事をとことん突き詰めて考えるところだ。画家と画商なのに、まるで哲学者の兄弟みたいだ。

 

精神が不安的なのは、ゴッホだけではないのだ。血は争えないとはこのことという風に、テオドルスもとても心の繊細な人間だった。

 

兄弟、お互いに大切に想っているのに、お互いを苦しめてしまう。幸せになるのも、切り裂かれそうなほど痛くなるのも、二人は一緒。美しいけど脆くて危うい二人の愛情に、涙なしでは読めなかった。

 

言語と文化の使い分けが美しい

舞台はパリだが、フィンセント兄弟はオランダ人、忠正と重吉は日本人。フランス語で話しながらも、日本の文化が顔を出したり、オランダ人の兄弟が二人だけでオランダ語でしゃべる場面があったりする。母国の文化が作る人間性や、母国語でしか形にできないものなどが感じられて、心にくるものがあった。

 

おわり

これはフィンセント兄弟の物語だけれど、日本人画商である忠正と重吉の話もおもしろい。パリに憧れて日本を出て、日本の美術をフランス人に普及させる忠正の様子は、やはり日本人としては読んでいておもしろいなと感じるところがある。忠正は実在した人物らしいしね。

歴史、興味ないからこうやって小説で知れるのは嬉しかったりする。

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ローヌ川の星月夜』(1888)

アート小説、思った以上に面白かったから今度はまた原田マハさんの作品、ピカソの『暗幕のゲルニカ』を読んでみようと思います。

では。

 

たゆたえども沈まず

たゆたえども沈まず