風に溶けて消える

そんな穏やかな気持ちで生きたいほんとは。限界OLバンドマン

失恋小説集

【短い小説】音楽と記憶が結び合うから季節が変わらない

冷たいのに人懐っこい、猫みたいなひとだった。 「君に歌ってほしいな、これ」 そう言って、あの曲を聴かせてくれたのは9月の上旬。秋というより夏だったあの頃。 歌うの得意じゃないんだけど、という私にあなたは、君の声でこの曲が聴きたいんだ、なんて言…

【短い小説】都会と田舎の狭間でつなぐ電話が

「そろそろ東京は慣れた?」 土曜の14:30、仕事の休憩時間。テイクアウトしたカフェモカを片手に、イチョウ並木のベンチに腰掛けた私の電話越し。柔らかい癖のある声が響く。 「んんそうだねえ、駅からルミネくらいはすっと行けるようになったかな。」 きっ…

【短い小説】忘れていたアイスカフェラテ

4月。外気があたたかくなって、夏ぶりにドトールで頼んだアイスカフェラテの一口目を飲み込んだときに、君の顔とあの部屋が条件反射のように脳裏に浮かんだ。 久しぶりに、鼻に抜ける苦いエスプレッソの香り。 途端、脳内の意識が過去に引き戻される。あの夏…