新入社員だったあの日の前日
3月最後の金曜日。
期末だった。
月曜からは4月だ。
だけど進学して環境が変わるわけではないし、学年も上がらない。
会社では、新卒社員を受け入れる準備で慌ただしそうだった。
去年の今頃は、私もこうやって迎え入れられてたんだな。
1年も前のことなのに、1年も経ったような気がしない。
いつもそう、新しい環境に足を踏み入れるのはとても怖くて。
1年前の春、初めて踏み込んだワンフロアの広いオフィス。
うつむきがちに歩いてしまいそうになる顔をそろりそろりとあげて、周りの空気感をいち早く察知しようとした。
同期の誰にも負けたくなくて、仕事できそうに見られたくて、社会人としてはやく通用したくて、背伸びをしていた。
小学生が母親に言う、「子供扱いせんといて、もう子供じゃないもん!」
と、同じ感覚の、背伸びをしていた。
あの4月のことを私はありありと思い出せる。昨日の記憶のように、蘇る。
だから、あれから1年なんてと、不思議な気持ちになった。
この4月から、社会人2年目。私は何も変わらない。
マンスリーカレンダーの数字が変わるだけだ。日常は何ひとつ、変わらない。
環境も変わらなければ学校も変わらないし、クラスも変わらない、受ける授業さえも変わらない。それが社会人。
ああなるほど、社会人ってこういうことなのか。大人って、4月がこんなに退屈で、でもとても穏やかで優しいのか。
そんな変な気持ちになった金曜日だった。
別れどころか、ひとつの変化もない。
こんな春は、物心ついてからは初めてだ。
だから大人はこうして歳を取っていくんだな。
だから5年も10年もすぐ過ぎて行くんだろうな。
変化のない春は落ち着かなくて、そわそわする。穏やかだけど、慣れない。
そして慣れたくないなと思った。慣れていく未来を一瞬で想像できて怖くなった。
いつまでも、変化のない春に落ち着かなくなって、ちょっとだけ憂鬱な気持ちになりたい。
そんな社会人1年目が終わる、春。